ヨーロッパの美しい街並みをレンタカーで巡る旅。しかし、計画中に「低排出ゾーン(LEZ)」や「罰金」といった言葉を見て、不安に感じている方もいらっしゃるかもしれません。
「知らないうちに高額な罰金を請求されたら…」
安心してください。結論から言うと、ヨーロッパの主要なレンタカー会社は、これらの規制にほぼ標準対応しています。海外旅行で訪れる国のレンタカーを利用する場合、その車は現地の規制をクリアしていることがほとんどです。

「低排出ゾーン(LEZ)」とは? なぜ導入されたの?
なぜ導入された? その目的とは
ヨーロッパの多くの歴史的な都市では、自動車から排出される窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)による大気汚染が深刻な健康問題となっていました。この対策として、環境負荷の高い(主に古い)車両の市内中心部への乗り入れを制限・禁止するために導入されたのがLEZです。
LEZ、ZEZ、ULEZ、ZTL – 名称の違い
訪問する国や都市によって、この規制の呼び名や厳しさが異なります。
LEZ (Low Emission Zone): 「低排出ゾーン」。最も一般的な呼称です。排出ガスの基準(例:Euro 4, 5, 6など)を満たさない車両の進入を制限します。
ZEZ (Zero Emission Zone): 「ゼロ排出ゾーン」。電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)など、排出ガスがゼロの車両のみが許可される、最も厳しい区域です。
ULEZ (Ultra Low Emission Zone): 「超低排出ゾーン」。ロンドンで使われる呼称で、LEZよりもさらに厳しい基準(ガソリン車はEuro 4、ディーゼル車はEuro 6)が設定されています。
ZTL (Zona a Traffico Limitato): イタリア特有の「交通規制区域」。これは排出ガス規制とは異なり、主に歴史的中心部への一般車両(許可証のない車)の進入を終日または特定の時間帯に禁止するものです。

【国別】レンタカーならどう対応済み? 国ごとの簡単なチェックポイント
「旅行者が自分でステッカーを用意するの?」と不安に思うかもしれませんが、その必要はほとんどありません。
ドイツ:Umweltplakette(環境プラケット)
- 制度の概要: ベルリン、ミュンヘン、フランクフルトなど、主要都市の中心部は「Umweltzone(環境ゾーン)」と呼ばれ、緑色のステッカー(プラケット)が必須です。
- レンタカーでの安心ポイント: ドイツ国内で借りるレンタカーには、すでに緑色のステッカーがフロントガラスに貼られています。そのため、何か準備する必要は一切ありません。
- 唯一の注意点(国境越え): もし、ドイツ国外(例:オランダやフランス)で車を借りてドイツの都市部へ入る場合、その車にステッカーが貼られていない可能性があります。その場合のみ、予約時やカウンターで「ドイツのベルリン市内に入ります」と一言伝えましょう。

フランス:Crit’Air(クリテール)
- 制度の概要: パリ、リヨン、マルセイユなどで「ZFE」と呼ばれるゾーンが設定されており、6段階のステッカー(Crit’Air)で車両を分類しています。
- レンタカーでの安心ポイント: フランス国内(例:パリ・シャルル・ド・ゴール空港)で借りるレンタカーは、その地域を走行するために必要なCrit’Airステッカーが標準装備されています。これも心配する必要はありません。
- 唯一の注意点(国境越え): ドイツと同様、フランス国外(例:スペインやドイツ)で借りた車でフランスの規制都市(特にパリ)に入る場合は注意が必要です。Crit’Airステッカーは車両のナンバープレートに紐付いており、他国のレンタカー会社がフランスのステッカーまで用意していない可能性があるためです。この場合、国境を越える前にレンタカー会社に確認するのが確実です。

イギリス(ロンドン):ULEZ と Congestion Charge
- 制度の概要: ロンドンには「ULEZ(超低排出ゾーン)」と「Congestion Charge(渋滞税)」という2つの料金制度があります。
- レンタカーでの安心ポイント: 「ULEZ」は排出ガスの基準です。朗報ですが、現在ヨーロッパで提供されている新しいレンタカーは、ほぼ全てこの排出基準(ガ”ソリン車Euro 4, ディーゼル車Euro 6)をクリアしています。 つまりULEZの通行料は実質£0(無料)となるケースがほとんどです。念のためカウンターで「ULEZ compliant?(ULEZに対応してますか?)」と聞くと完璧です。
- 「渋滞税」は排出ガスに関係なく、中心部を走行する全車両が対象です(特定の時間帯のみ)。 これも非常に便利になっており、多くの大手レンタカー会社は「自動支払い(Auto Pay)」システムを導入しています。もし渋滞税の区域内に進入すると、レンタカー会社が自動で税金を支払い、後日カードに請求します。 「支払い忘れて罰金」になるリスクは最小限に抑えられているため、安心して運転できます。

イタリア:ZTL(Zona a Traffico Limitato)
- 制度の概要: これまで紹介した
ヨーロッパ低排出ゾーンとは異なり、これが旅行者にとって唯一、細かな点まで気を配る必要な規制です。 - これは「環境規制」ではなく、「住民と許可車両以外の進入禁止」区域です。ローマ、フィレンツェ、ミラノなどの歴史的中心部(旧市街)の入り口に、必ず監視カメラが設置されています。
- レンタカーでの注意点: レンタカーは「許可車両」ではないため、ZTLには原則として進入禁止です。 もし知らずに侵入すると、数分後に別のZTL区域に侵入…という形で、カメラを通過するたびに罰金が累積し、帰国後に数万円〜十数万円の高額請求が届く原因となります。
- ZTLの賢い回避策: P+R (パーク&ライド) を活用しましょう。都市郊外にある安価な駐車場に車を停め、そこからトラムやバスで市内中心部へ向かう方法です。これが最も安全・安価・ストレスフリーです。
- もしZTL内のホテルに宿泊する場合は? 必ず、予約時または事前にホテルへ「レンタカーで行く」と連絡し、車のナンバープレート情報を伝えてください。ホテルが車を「一時的な許可車両」として市に登録してくれます。これを怠ると、ホテルに辿り着くだけで罰金対象となってしまいます。

もし罰金通知が来てしまったら
万が一、対策を怠り、帰国後に通知書が届いた場合の対処法です。
帰国後に届く「罰金通知書」のプロセス
- レンタカー会社からの「手数料」請求: まず、違反から数週間〜数ヶ月後、レンタカー会社から「現地警察にあなたの個人情報を提供するための事務手数料(Handling Fee/Administration Fee)」として、約30〜50ユーロがクレジットカードに請求されます。これは罰金本体ではありません。
- 罰金本体の通知書が到着: その後、さらに数ヶ月経ってから、違反した都市の管轄当局から、国際郵便で「罰金通知書(Penalty Charge Notice)」が自宅に届きます。
- 支払いプロセス: 通知書には違反内容、写真、支払い期限、支払い方法(多くはオンラインでのクレジットカード決済が可能)が記載されています。 多くの場合、「早期支払い割引(例:14日以内に支払えば50%減額)」が適用されるため、届いたらすぐに内容を確認し、期限内に支払うのが賢明です。
罰金を支払わない(無視する)リスク
「海外からの請求だから」と無視するのは最悪の選択です。 延滞金が加算されるだけでなく、国際的な債権回収業者に委託される場合があります。さらに将来的には、その国への再入国時や、EU圏の新しい電子渡航認証システム(ETIASなど)の申請時に、不利益を被る可能性が指摘されています。
